2025年11月18日



 

 超音波加工によるセラミックマトリックス複合材料(CMC)の高効率化:高除去率、高品質穴加工、長寿命工具の実現 



#80 Φ120mm 電着ダイヤモンド砥石HIT HBT-40 超音波研削砥石ツールホルダモジュールを使用した結果、従来のCCB(カーボンセラミック・ブレーキディスク)の荒研削加工と比較して、材料除去率(MRR)が3.3倍砥石寿命が3倍向上しました。また、HIT HBT-40 超音波ツールホルダモジュールΦ5mmダイヤモンドドリルを用いた穴あけ加工では、加工サイクルタイムが5倍短縮エッジクラック寸法が0.1mm以下工具寿命が4倍に延びました。試験条件およびパラメータは表A~Dに示します。
 

 

CMCの加工が困難な理由

 

🔘 なぜ欠け、ほつれ、発熱が起こるのか?

 

低い破壊靭性と限られた塑性変形


セラミックマトリックス複合材料(CMC, Ceramic Matrix Composites)破壊靭性が低くほぼ塑性変形を持たないため、材料が連続したせん断チップを形成せず、微小欠陥から亀裂が発生します。

スポーツカー用カーボンセラミックブレーキディスクの断片
(図1. スポーツカー用カーボンセラミックブレーキディスクの断片)

 

高硬度かつ高摩耗性のセラミック相


SiCやAl₂O₃などの非常に硬く摩耗性の高い相が、工具摩耗と摩擦を増大させ、工具-ワーク界面に熱を集中させます。

 

不均質で異方性の高い構造


繊維の不均一構造により切削抵抗が不安定になり、繊維-マトリックス界面の結合が弱いため、加工中に剥離や毛羽立ちが発生します。

 

熱伝導性の低さによる熱集中


多くのマトリックス材料は熱伝導率が低く加工中に熱が蓄積しやすくなります。その結果、工具摩耗や焼けのリスクが高まります。

 

酸化による脆化


高温下では炭素を含む相が酸化脆化を起こし、靭性を低下させ、エッジ部のチッピングを促進します。


 

🔘 なぜ従来の研削・穴あけ加工がCMCではうまくいかないのか?

 

熱の発生と砥石の消耗による長い加工時間


CMCの研削加工は、セラミック相が極めて硬く、研磨性が高いため、ダイヤモンド砥粒が鈍化・脱落しやすく、加工速度が遅くなります。このため、切込み深さや送り速度を小さく設定せざるを得ず、加工熱の蓄積を招きます。結果として砥石の摩耗が早く、頻繁なドレッシングが必要になり、材料除去率は低下し砥石消費は増加します。

 

長い加工時間・低い穴品質・著しい工具摩耗


CMCの穴あけ加工では、高硬度不均質構造により工具リップが連続して硬質相と接触し、ダイヤモンドコーティングが急速に剥離します。亀裂を抑制するためには切削条件を緩和せざるを得ず、加工効率が大幅に低下します。
 
 

HIT超音波技術がCMC加工をどのように改善するのか

 

🔘 研削および穴あけにおける超音波メカニズム

 

研削プロセスにおける超音波メカニズム


超音波は軸方向(Z軸)において毎秒2万回以上の高周波微小振動を砥石に与えます。この振動により、砥石とワークが周期的に分離・衝突を繰り返し、従来の擦り切り摩擦が微小インパクト作用に変化します。これにより効率的な材料除去が可能になります。また、周期的な分離により切削液が界面に流入しやすくなり冷却性切りくず排出性が向上します。

HIT 超音波支援によるカーボンセラミックブレーキディスクの平面研削
(図2. HIT 超音波支援によるカーボンセラミックブレーキディスクの平面研削)

 

穴あけプロセスにおける超音波メカニズム


超音波による微小衝撃的切削作用脆性相に微細な破壊(マイクロフラクチャ)を誘発し、粉末化や小さなチップ形成による制御除去が可能になります。また、短い接触時間改善された破壊力学により、摩擦熱を低減し、切削液の流入性を向上させます。


 

🔘 HITによるCMCの超音波研削加工:方法と結果

 
表A. CMCの超音波研削加工条件
  材料   カーボンセラミック(C/SiC)ブレーキディスク    
  加工形状   平面研削(粗加工)
  ツールホルダ      HBT-40-W01 超音波研削砥石ツールホルダ
  砥石仕様        #80 Φ120mm 電着ダイヤモンド砥石   
 
 

[カーボンセラミック・ブレーキディスク(CCB)の平面研削加工] 加工方法

 
表B. パラメータ(従来加工 vs 超音波加工)
  主軸回転数
(S: min-1)
送り速度
(mm/min)
 径方向切込み 
(Ae: mm)
 軸方向切込み 
(Ap: mm)
超音波パワーレベル
(%)
HIT 超音波有り 5,952 1,200 20 0.020 100
従来のプロセス 900 0.008 -
 
 
  • HITの超音波技術は、砥石に高周波微振動を与え、加工中に周期的な衝撃と分離を発生させることで、冷却切りくず除去を促進し、研削抵抗を低減します。
  • これにより、送り速度切込み深さの増加が可能となり、材料除去率(MRR)が3.3倍向上しました。さらに、冷却効果と排出性の向上により、砥石寿命は3倍に延長されました。
 
 

[カーボンセラミック・ブレーキディスク(CCB)の平面研削加工] 加工結果

 
表C. 結果 ― 超音波加工による高い材料除去率(MRR)と長い砥石寿命
  材料除去率
(mm3/min)
砥石寿命
(個/1砥石あたり)
HIT 超音波有り 480 3
従来のプロセス 144 1


HIT超音波研削による材料除去率の3.3倍向上
(図3. HIT超音波研削による材料除去率の3.3倍向上)


HIT超音波研削による砥石寿命の3倍延長
(図4. HIT超音波研削による砥石寿命の3倍延長)


🧠 この事例の詳細を見る:カーボンセラミック・ブレーキディスク(CCB)の平面研削加工




🔘 HITによるCMCの超音波穴あけ加工:方法と結果

 
表D. CMCの超音波穴あけ加工条件
  材料   カーボンセラミック(C/SiC)ブレーキディスク    
  加工形状   Φ5 x 5mm (盲穴)  *アスペクト比1:1  
  ツールホルダ        HBT-40 超音波ツールホルダ
  工具仕様       Φ5mm ダイヤモンドドリル
 
 

[カーボンセラミック・ブレーキディスク(CCB)の穴あけ加工] 加工方法

 
表E. パラメータ(従来加工 vs 超音波加工)
  主軸回転数
(S: min-1)
送り速度
(mm/min)
Q-ピークドリリング
(mm)
 軸方向切込み 
(Ap: mm)
超音波パワーレベル
(%)
HIT 超音波有り  4,000~6,500  2~8  0.16~1.00  2.5~5 50
従来のプロセス 4,000 1 0.04 5 -
 
 
  • HIT超音波加工では、工具が周期的にワークに衝撃を与えることで、冷却性切りくず排出性が向上し推力と切削抵抗を低減します。
  • これにより、加工パラメータの最適化が可能となり、1穴あたりの加工時間を短縮加工効率を5倍向上させました。
  • また、エッジクラック寸法が顕著に小さくなり、穴品質が5倍改善されました。
  • 同一条件下で比較すると、工具寿命は4倍に延長されました。
 
 

[カーボンセラミック・ブレーキディスク(CCB)の穴あけ加工] 加工結果

 
表F. 結果 ― 超音波加工による高効率化・高品質な穴加工・長寿命工具の実現
  加工時間
(分/1穴あたり)
エッジクラック寸法
(mm)
穴あけ数
(穴/1工具あたり)
HIT 超音波有り 3 0.1 12
従来のプロセス 15 0.5 3


超音波穴あけによる加工効率の5倍向上
(図5. 超音波穴あけによる加工効率の5倍向上)


超音波穴あけによる穴品質の5倍改善
(図6. 超音波穴あけによる穴品質の5倍改善)


超音波穴あけによる工具寿命の4倍延長
(図7. 超音波穴あけによる工具寿命の4倍延長)


🧠 この事例の詳細を見る:カーボンセラミック・ブレーキディスク(CCB)の穴あけ加工
 
 

産業分野でのCMC超音波加工の応用例

 

🔘 モータースポーツ産業:カーボンセラミックブレーキディスク(CCB)


カーボンセラミック・ブレーキディスクはモータースポーツ業界で広く使用されている - 写真提供 : Gemanis Industries LLC
(図8. カーボンセラミック・ブレーキディスクはモータースポーツ業界で広く使用されている - 写真提供 : Gemanis Industries LLC)


GTレースや耐久レースで広く使用されるCCBは、軽量・高剛性・高耐熱性を備え、ブレーキフェードに強い特性を持ちます。セラミックマトリックスにより、湿潤環境でも酸化や摩耗に強く安定したペダルフィールを実現します。一方で、熱衝撃や衝撃荷重に敏感であり、高コストですが、耐久性と安定性を重視するチームに採用されています。


 

🔘 航空宇宙産業:CMC製航空機ブラケット


AIが生成した画像 : 航空宇宙産業で使用されるCMC製航空機ブラケットのシミュレーション
(図9. AIが生成した画像 : 航空宇宙産業で使用されるCMC製航空機ブラケットのシミュレーション)
 

エンジンナセル、排気ダクト、熱遮蔽部など高温領域に設置される航空機ブラケットにCMCが使用されます。CMCブラケットは軽量・高剛性・低熱膨張率を兼ね備え、高温下でも形状を保持します。また、熱伝導を局所化し、構造負荷を軽減する効果もあります。ただし、コストが高く、ノッチ感受性が強く、厳密な加工公差が必要です。
 
 

よくある質問(FAQ)

 

🔘 Q1. 高MRRを得るために適したダイヤモンド砥粒と結合剤は?


粗加工には#60~#120番手の粗粒ダイヤモンド砥石が推奨されます。電着ダイヤモンド砥石を使用することで切れ味を最大化し、短・中期運転に最適です。HIT超音波研削技術と組み合わせることで、研削抵抗を低減し、冷却および排出性を改善できます。

 

🔘 Q2. CMCの穴あけ加工に適した振幅は?


100%出力(約15µm振幅)は過剰な衝撃となり、マイクロチッピングや亀裂を誘発する場合があります。HITの超音波穴あけ技術では、断続的接触破壊補助切削により、推力・トルクを低減し、エッジ損傷を抑制します。異方性の強いCMCでは、出力レベル50%前後が推奨されます。



💡 関連情報 - HIT超音波プロセスソリューション:先進材料(セラミックス、石英、ガラス、CMCなど)の加工事例


📖 参考文献

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漢鼎智慧科技 Hantop Intelligence Tech.
✨先端材料向け超音波加工ソリューション✨
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